たった一人の人間に心躍らされ、揺らされる。
人間というのは、なんておかしな生きものなんだろう。



プロローグ



四月を告げた桜は、もうほとんど散ってしまった。

二年生に進級し親友のと同じクラスになれたこともあり、私は新しいクラスにもだいぶ馴染めてきていた。
新しい八組の教室は、今は帰り支度をする生徒でにぎわっている。
部活に行こうという男子生徒たちの掛け合いを背中で聞きながら、帰宅部である私は帰り支度をしていた。

カバンの中にノートを入れていると、元気な声の持ち主がとびついてきて驚き思わず声をあげてしまった。

〜!」
「わっ、、どうしたの?」

私の肩に手をまわしてきた彼女の髪は明るく、先日かけたばかりだというパーマがふわりと揺れ、耳のピアスが光った。
ちょっぴり大人っぽい彼女は、
幼稚園からずっと一緒にいる、私のことをとてもよく分かっている大切な親友だ。

抱きつかれたまま問いかけると、彼女の嬉しそうな表情は更に明るく弾んだ。

っ。今日ヒマ?」
「うん・・・このまま、お家に帰ろうと思ってたけど」

部活も習い事もしてないため、時間があるのは事実だった。
ヒマだよ、そう伝えた途端の目がらんらんと輝き、いきなり突拍子もないことを叫んだ。

「ねぇ、テニス部見に行かない!?」
「え!?」

てっきりケーキでも食べに行こう、と言うのかと思っていた私は、その言葉に拍子抜けしてしまった。
何も言えず力の抜けた私の腕を、捕まえたとばかりに絡まれる。

「・・・、テニス部入るの?」
「まっさか〜!見学だよ〜」
「見学って・・・、習い事あるから部活には入らないって言ってたのに」
「入んないよ。男子テニスだし」
「へ?」

よくよく聞けば、青学のテニス部がイケメンぞろい、と誰かから聞いたらしく、それを確かめに行きたいのだという。
なんてミーハーな、という私の思いはどこ吹く風、気付けばに引っ張られ教室から出ていた。
いきなり見学だなんて、部の人達に迷惑はかからないのだろうか。

「勝手に見学していいの?顧問の先生から許可取ったほうが・・・」
「学校の部活だよ〜?フェンス越しに見るだけだし何も言われないよ」

それは一種のヤジウマでは・・・そんな言葉を飲み込んで、昇降口でローファーに履き替えれば、あとはテニスコートへ進むだけ。
そういえば私は、テニス部だけじゃなく部活をやっている人の姿をあまり見たことがなかった。
学校が終わったらさっさと帰っていたから、目にする機会がなかったのだろう。

ふと空を見たら、抜けるような青空がいっぱいに広がっていた。きれいな青。
後ろからは、まるで追い風のように風が走っている。

たまにはこんな寄り道もいいかな、そう思いながら、に引っ張られて私はコートへと向かっていった。



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