部活帰りのハンバーガーショップで、青学テニス部の男四人は顔を突き合わせ話し込んでいた。
一番後輩であるリョーマは溜め息を吐きながらハンバーガーにかぶりついている。
「まじでどーしたらいいと思います?」
「・・・お前のろけてんのか?」
トレーの上に乗せた大量の包み紙を前に、桃城は苦々しい声を出す。
それを聞いた不二がまぁまぁと二人をいさめた。
「桃、越前は本気で悩んでるんだよ」
「幸せな悩みだにゃ〜おチビのくせに〜!」
ストローを悔しそうに噛む菊丸に視線を投げかけ、リョーマは再び溜め息を吐く。
幸せな悩みだろうが、悩みには違いないのだ。
Love Ring 前編
今日の部活はいつも以上にハードだった為、小腹を満たそうとリョーマと桃城はまっすぐこの店へとやってきた。
同じように空腹だったのか、不二と菊丸も二人の後をついてきてこうして四人一緒に座っている。
普段リョーマと一緒に帰宅しているは、今日はクラスの友人と寄り道をしているためこの場にはいなかった。
「俺、別にのろけてるわけじゃないっスよ」
ポテトをつまみながら、既に十個目のハンバーガーにかぶりついてる桃城にリョーマは抗議する。
「あれだろ?つまり・・・不安ってことか?」
「そーゆーんじゃないっス。そうじゃなくて、に近寄る奴が多いんスよ」
リョーマの悩みはつまりこういうことだ。
付き合ってから気付いたのだが、彼女に対して好意を持つ者がやたら多い。
それはもちろん容姿だけでなく性格の良さも併せ持っているためかもしれないが、青学内だけでなくどうやら
他校にまで彼女の存在は広がっているようだ。
自分という彼氏がいても告白をする奴もいるし、釣り合わないと諦めつつもに対する憧れをそのまま持ち続けている奴もいる。
あわよくば、と隙を狙う輩さえいるのだから、リョーマとしては不満が溜まる一方だった。
不二が苦笑しながら、そうだねと同情した。
「でも越前、言い寄られるのはさんが悪いわけじゃないよ。ちゃんと断ってるんだし」
「それは分かってんスけど・・・」
断っていることは知っているが、あまり気分がいいものではない。
おまけに彼女は少々無防備なので、それが余計に不安を煽るのだ。
リョーマのポテトを取り上げた菊丸が、それじゃあさと言ってビシッと指を突きつける。
「なーんか、こいつは俺のものだ!って周りに分からせればいいんじゃない?」
「例えば?英二」
「ん〜・・・指輪とか?」
「指輪?なんで?」
きょとんとした顔のリョーマに、桃城がからかうように声をあげた。
「お前そーゆーのにうといなぁ、おい」
「ちょっと黙っててくださいよ桃先輩。声大きいんだから」
菊丸の言葉を聞いて、不二は納得したように頷く。
「越前。女の子って、彼氏から貰った指輪を左手の薬指に嵌めるんだよ」
「そうそう!んで、女の子が彼氏から欲しがるものも指輪が多いんだよね〜」
「薬指?それって・・・」
「うん。結婚指輪とか婚約指輪も薬指だけど、今は付き合ってる時でも左手の薬指に嵌める子もいるんだよ」
ふーん、とリョーマはコーラを飲みながら頭を巡らせる。
この二人がそういったことに詳しいのは意外だったが、それでもどこか腑に落ちない。
「でも俺と付き合ってんの知ってて寄ってくるんだから、意味ないでしょ」
「そんなことないよ、越前」
ニコリと不二が笑いかける。
「少なくとも、好きな人がいますって自分から主張してるようなものだし」
「そうそう!控えめなちゃんが付けてると余計効果あると思うにゃ〜」
「勇気のない男なら、見込みはないときっとすぐ諦めるよ」
黙って聞いていた桃城も、未だ考えあぐねるリョーマに声をかける。
「も女だし、光り物好きなんじゃねーか?」
「きっと告白される回数は減るんじゃないかな、僕はそう思うけど」
確かに多少の効果はあるかもしれない。
だがなかなか首を縦に振らないリョーマを見て、不二はもしかしてと口を開いた。
「薬指がイヤ?」
「・・・」
沈黙は肯定だろう。
「まぁ確かに、女の子にとっては大事な場所だからね、薬指は」
その時ハンバーガーにかぶりつこうとした桃城が、あっと声を上げた。
「そうばいえばの奴、と話してる時に指輪の話してたな」
「なんて?」
「薬指は結婚してからがいいとかなんとか・・・なんか雑誌見ながら言ってたな」
「桃もたまには役にたつじゃーん!」
「どーゆー意味っスか英二先輩!」
騒ぎ始めた二人を尻目に、冷静な不二は耳打ちをする。
「だってさ。越前はどうする?」
「どうするったって・・・薬指にできないんじゃあ意味ないっス」
決まりかけていた心があっという間に萎えていくのを感じた。
少しがっかりした顔のリョーマを見て、そんなことないよと不二が笑った。
何も薬指にこだわらなくていいんだ、と。
「女の子が同じアクセサリーを毎日つけてたら、たいてい彼氏からのプレゼントだと思うよ。特に指輪はね」
「・・・そうなんスか?」
「そういうものだよ」
それに、とリョーマの目の前に左手を広げてみせ、不二はその中の一つの指をつまんだ。
そこは、恋のお守りにも最適な場所。
「ここにつけても効果はあるはずさ。僕も協力するよ、越前」
数日後、いつも通りテニス部の練習が行われている中、図書委員のため遅れてやってきたリョーマに不二は爽やかな笑顔で告げた。
「越前、サイズ分かったよ。それと、はい、これ」
部室で着替えている傍で、自分のカバンの中から何かを取り出した不二はリョーマにそれを手渡した。
見てみると、ハート形の石がついている女性物の指輪で裏に文字が刻印されている。
彼曰く、これと同じサイズの指輪を探せばのあの指にも当て嵌まるのだという。
「さんが協力してくれたんだ。それは彼女のだから、失くさないようにね」
「協力って・・・どうやって」
「それ以外にも指輪を持ってて、いくつか学校につけていったんだ。その時にうまく嵌めてサイズを見つけ出したらしいよ」
男の自分には分からない世界だが、うまくやるもんだとリョーマは少し感心した。
きちんとそれをカバンにしまったところで、それと、と不二が付け足す。
「さんの好みとかさり気なく聞いて教えてくれたから・・・明日にでも、買いに行くかい?」
「そうっスね」
素直に頷いたリョーマを見て、不二は肩をすくめて笑った。
「ほんと、越前はさんにご執心だね」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
少し長くなったのでパート分けします、ごめんなさい
それにしても、うちのリョーマ君はヒロインにベタ甘です(笑)