時刻は土曜日の二十三時。
あと一時間で新しい一日が始まる。

ベッドの上に寝転ぶと、激しい雨音が聞こえた。


Than sound of rain


そういえば台風が来てるらしい。
夕飯時に見たニュースの天気予報で、明日の明け方まで小雨が降ると言っていた気がした。

ごろんと横になると、私の目に携帯がうつる。
メールをしようかと手を伸ばしたところで、もう寝てるかもしれないと思い躊躇っていると聞きなれた着信音が部屋に響いた。
ディスプレイを見なくても分かる、これはリョーマ君専用の着信音だ。

急いで手に取ると、メールではなく電話であることが分かった。
彼がこんな時間に電話をしてくるなんて珍しい。むしろ、電話自体あまりかかってこないというのに。

「・・・もしもし?」
?』
「あ、うん。どうしたの?」
『なんとなくかけてみた』

その言葉に緊張が体から抜け思わず笑いが漏れる。
何か緊急事態かと思ったがそうではないようで、安心と同時に嬉しさがこみ上げてきた。

『雨すごくない?』
「台風だしね〜。部屋にいて窓閉まってるのに雨音聞こえるもん」

でも雨音じゃなくて、リョーマ君の声が聞けて嬉しい、そう零してしまいそうな口をキュッと引き締める。

「明日は部活あるのかな?」
『一日中台風だったらないけど、朝止むなら午前中はやるかな』
「そうだよね・・・」
『部活じゃなかったら一日中といれたんだけどね』

彼の言葉は、今ちょうど私自身が胸に留めていた気持ちと同じで一気に体中が熱くなる。
お互いの考えが一緒なのだと、余計に嬉しさが増しそれが熱に拍車をかけた。

、今顔赤いんじゃない?』
「うるさーいっ」

鏡を見なくても自分の顔が真っ赤だということは分かる。
彼はこうやって私を照れさせるのが好きらしいが、なんだかうまく転がされているようでちょっと悔しい。

「もうっ・・・リョーマ君っていつもからかって・・・」
だけじゃん』
「・・・いじめっ子・・・」
『からかわれて顔赤くしてる可愛いし』
「また、そうやって・・・」
『本心だけど?』

矢継ぎ早に繰り出されるリョーマ君の“口撃”に、私の防御は間に合わない。

?』
「・・・・・」
『怒った?』
「怒ってない・・・ただ恥ずかしくて・・・」

反撃もできないまま素直に負けを認めると、自分がいつの間にかベッドの上で正座をしていることに私は気づいた。
足が痺れてしまう前にゆっくりと体制を崩す。

『そーゆーとこも好き』
「・・・リョーマ君っ」

なんだか今日の彼はいつも以上にイジワルだ。
普段ならここまで言わない。

、明日空いてる?』
「え?空いてるけど・・・」
『部活終わったらどっか行く?』
「明日一日中部活じゃないの?」

リョーマ君と話していたら、台風のことをすっかりと忘れていた。
そんなに時間が経っているわけではないので、雨音はもちろんまだ激しく聞こえている。

聞くとどうやら明日の部活は午前中だけのようで、午後からは空いてるとのこと。
久しぶりの休日デートで、嬉しくなり思わず背筋をのばした。

『明日、部活終わったらメールする』
「うんっ、待ってるね!」

天気予報が当たりなら、台風は寝ている間に過ぎ去り雨は明け方に止むはずだ。
つまりリョーマ君と遊ぶ午後はきっと気持ちよく晴れてるだろう。
ひょっとしたら彼は、この約束をするために電話をかけてきてくれたのかもしれない。

『・・・・じゃ、俺そろそろ寝る。明日早いし』
「うん、電話ありがとね」
『・・・声、聞きたかったから』
「え?」
『おやすみ、

ぼそっとした呟きは耳に届かず、聞き返した言葉もそのまま流れてしまった。

「・・・?うん、おやすみ」

はぐらかされたような気がするけれど、私は大人しく携帯の電源を切った。

ベッドの中に入り直し暖かい布団をかぶると、枕元にある充電器に携帯を繋ぐ。
雨は小降りになってきたのか、先ほどよりも音が控えめになっているような気がした。

大好きなリョーマ君の声を、電話越しではなくこの耳で聞きたい。
浮き立つ気持ちをグッと抑え、早く明日になれと思いながら私は目を瞑った。